『ハード・ウェイ』J.R.ロビテイル/堀内静子 訳 二見文庫(1991)
映画では、モスを殴ってニックが去った後の流れはこうです。
- ニックが運転するパトカーにパーティー・クラッシャーが潜んでいて、ニックが無謀な運転でビビらせ対抗するが、結局逃がしてしまう。
- ニック・ラングだとバレてニュースになる。
- レイの正体を黙っていたことに怒ったスーザンがモスのアパートに来て、モスとの別れを告げる。
- エレベーターでスーザンがパーティー・クラッシャーにさらわれる。
- ニックがモスのアパートに戻ってきて、スーザンが狙われると忠告する。
- ニックがスーザンとすれ違っていないことを不思議に思っていたらパーティー・クラッシャーから電話が掛かってくる。
- ニックの看板の帽子の上で対決。
- ニックが撃たれ、モスがニックを守るためにパーティー・クラッシャーを転落させる。
- 瀕死のニックにモスがなぜ戻ってきたのか聞き、ニックは役のためだと答える。
- ニックがレイ・カサノヴ役は自分に決まるかなと聞き、モスがお前なら大丈夫だと微笑む。
- 救急車で運ばれるニックにモスが、本物の弾と本物の血に満足したかと聞いているところから、ニックがレイ・カサノヴ役を演じている映画に代わる。
- 映画館で見ているモスは、自分の「映画は17回も撮り直すがおれたちは1回」というセリフが使われていることに驚き、みんなに言うが、黙って見ろと言われるので「本物はもっとチビだぞ」とすねる。
ちなみに、『むなしい勝利』でトニー・ディベネデッティ役を演じるニックは、むさくるしい、疲れたような警官で、3日分の無精ひげを生やし、くたびれた服(モスのクローゼットにあったくたびれたコートを真似たのだと思います)を着て、険悪な顔に決然とした表情を浮かべています。新人を「よく聞け、このくそったれ」「だまれ!」とどなりつけますが、上司の警部にはこってりしぼられます。まるでモスとブルックリン警部みたいに。
映画と小説の違いで注目すべき点のひとつが、モスはパーティー・クラッシャーを直接殺してないということです。
映画のモスは人を殺したときの気持ちを「クソになったような気分だ」と表現していました。たとえニックを守るためとはいえ、人を殺してしまったモス。もしかしたらまた「クソになったような気分」になっていたのかも。ニックも、モスに騙されてその気分を味わったから、モスの気持ちがわかって、自分のためにパーティー・クラッシャーを殺させてしまったことに罪悪感を抱いたかもしれません。
小説のクライマックスは、モスが騙す時に使った空砲をうまく利用してニックが騙し返すという面白い展開もあり、ワリオとしては小説のクライマックスの方が好きです。
あとはなんといっても、心を開いた後のモスのセリフですよ!聞いているニックは騙された恨みがあるので皮肉を言ったり、そっけない感じで返事をしたり。まるで立場が逆転したかのよう。陽気な笑顔が魅力の映画スターだったニックが、だいぶモス寄りに。一方モスは、皮肉はいうものの穏やかになりました。ふたりを足して2で割った感じ。
さて、資料集⑪小説はこれでおしまい。長かったですねー。次回から映画に戻りますよ。
小説全体を通して最後に一言。
著者のロビテイル氏は沈黙「……」の魔術師だと思う。