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きびしい道でもゆっくり歩けば足跡が残る(by書道家・時重泰香)

映画『ハード・ウェイ』資料集⑪小説 その20 映画と全然違うクライマックス

『ハード・ウェイ』J.R.ロビテイル/堀内静子 訳 二見文庫(1991)

 

映画では、モスを殴ってニックが去った後の流れはこうです。

  1. ニックが運転するパトカーにパーティー・クラッシャーが潜んでいて、ニックが無謀な運転でビビらせ対抗するが、結局逃がしてしまう。
  2. ニック・ラングだとバレてニュースになる。
  3. レイの正体を黙っていたことに怒ったスーザンがモスのアパートに来て、モスとの別れを告げる。
  4. エレベーターでスーザンがパーティー・クラッシャーにさらわれる。
  5. ニックがモスのアパートに戻ってきて、スーザンが狙われると忠告する。
  6. ニックがスーザンとすれ違っていないことを不思議に思っていたらパーティー・クラッシャーから電話が掛かってくる。
  7. ニックの看板の帽子の上で対決。
  8. ニックが撃たれ、モスがニックを守るためにパーティー・クラッシャーを転落させる。
  9. 瀕死のニックにモスがなぜ戻ってきたのか聞き、ニックは役のためだと答える。
  10. ニックがレイ・カサノヴ役は自分に決まるかなと聞き、モスがお前なら大丈夫だと微笑む。
  11. 救急車で運ばれるニックにモスが、本物の弾と本物の血に満足したかと聞いているところから、ニックがレイ・カサノヴ役を演じている映画に代わる。
  12. 映画館で見ているモスは、自分の「映画は17回も撮り直すがおれたちは1回」というセリフが使われていることに驚き、みんなに言うが、黙って見ろと言われるので「本物はもっとチビだぞ」とすねる。
 
小説はこうです。青字のところが映画と大きく違うところです。
 
①ニックが運転するパトカーにパーティー・クラッシャーが潜んでいて、ニックが無謀な運転でビビらせ対抗するが、結局逃がしてしまう
②ニック・ラングだとバレてニュースになる
③警察署で取材を受けていたニックがモスに別れを告げに行くが、思いがけないことに、うまく言葉が出てこない。
④モスが、パーティー・クラッシャーと5分以上いて生きてるニックを褒める。
⑤モスがニックに視線を合わせ、何度も言葉に窮しながら、自首するために戻ってきたのは肝がすわっていると褒める。
⑥モスがニックに、映画館で危険を顧みずパーティー・クラッシャーが狙っていることを大声で知らせてくれたことについて「ありがとう」と感謝を述べる。
⑦ふたりの間に敬意が流れ、ニックははじめてモスに人間として認めてもらえたと思う。
⑧互いに「またな」と言って別れるが、モスはニックが去るのを見ても、あまり嬉しくなれない。
⑨レイの正体を黙っていたことに怒ったスーザンがモスのアパートに来る。
➉モスはスーザンに、自分は打ち解けるタイプではないから結婚生活もだめになったし、好きになったらどうふるまえばいいか分からなくて黙り込んでしまうんだと、素直な気持ちを打ち明け、仲直りをする。
⑪そこへニックがやってきて、パーティー・クラッシャーがここにくるはずだからふたりとも出ろと警告する。
⑫パーティー・クラッシャーがベッドルームの窓から侵入。
⑬スーザンを家主のケプラーさんの部屋に逃がす。
⑭ニックの看板の帽子の上で対決(スーザンはさらわれていない)。
⑮ニックが撃たれ、モスがパーティー・クラッシャーを掴もうとしたら、パーティー・クラッシャーは足を滑らせて転落。
⑯モスがぐったり倒れているニックの横にひざまずき、両腕に抱きあげる。
⑰あの役をもらえたと思うかとニックが訊き、きっともらえたとモスが答える。
⑱ニックが本物の警官になれたかと訊き、モスが涙を流しながら、警官になれる、度胸があると伝える。
⑲身体を震わせるニックをモスがかたく抱きしめ、この俳優をひとりだけで暗い夜の中に去らせはしないと決心し、血の気が失せ目が閉じたニックに「死ぬな」と割れた声で言う。
⑳ニックが目をパッと開いて、度胸があると本気で思うかのと目をきらきらさせて嬉しそうに訊き、モスは憤慨して抱いていたニックを落とす。
㉑ニックはモスが自分を騙すのに使った空砲を使って撃たれたふりをし、前からやりたかったのにやらせてもらえなかった臨終シーンを演じていたことを明かす。
㉒死んだと思って心を動かしたことをからかわれてもモスは全然怒りを感じず、嬉しくて笑いがこみあげ、抑えようとしても顔がほころぶ。
㉓ニックが今回も助けてくれたことにモスがまた「ありがとう」と言う。
㉔看板から出る時、モスが友情をこめてニックの肩に腕を回す。
㉕映画『むなしい勝利』のニューヨーク・プレミアを観ているモスは、自分の「映画は17回も撮り直すがおれたちは1回」というセリフが使われていることに憤然としてスーザンに言うが、カップルからしっと言われるので、本人はずっと背が低いんだと言う。
㉖やがてまた口を開いてスーザンに「あいつ、あんまり悪くないな」と言う。

 

ちなみに、『むなしい勝利』でトニー・ディベネデッティ役を演じるニックは、むさくるしい、疲れたような警官で、3日分の無精ひげを生やし、くたびれた服(モスのクローゼットにあったくたびれたコートを真似たのだと思います)を着て、険悪な顔に決然とした表情を浮かべています。新人を「よく聞け、このくそったれ」「だまれ!」とどなりつけますが、上司の警部にはこってりしぼられます。まるでモスとブルックリン警部みたいに。

 

映画と小説の違いで注目すべき点のひとつが、モスはパーティー・クラッシャーを直接殺してないということです。

映画のモスは人を殺したときの気持ちを「クソになったような気分だ」と表現していました。たとえニックを守るためとはいえ、人を殺してしまったモス。もしかしたらまた「クソになったような気分」になっていたのかも。ニックも、モスに騙されてその気分を味わったから、モスの気持ちがわかって、自分のためにパーティー・クラッシャーを殺させてしまったことに罪悪感を抱いたかもしれません。

小説のクライマックスは、モスが騙す時に使った空砲をうまく利用してニックが騙し返すという面白い展開もあり、ワリオとしては小説のクライマックスの方が好きです。

 

あとはなんといっても、心を開いた後のモスのセリフですよ!聞いているニックは騙された恨みがあるので皮肉を言ったり、そっけない感じで返事をしたり。まるで立場が逆転したかのよう。陽気な笑顔が魅力の映画スターだったニックが、だいぶモス寄りに。一方モスは、皮肉はいうものの穏やかになりました。ふたりを足して2で割った感じ。

 

さて、資料集⑪小説はこれでおしまい。長かったですねー。次回から映画に戻りますよ。

小説全体を通して最後に一言。

 

著者のロビテイル氏は沈黙「……」の魔術師だと思う。