『ハード・ウェイ』J.R.ロビテイル/堀内静子 訳 二見文庫(1991)
ニックが話しかけても無視して反応を示さなかったモスが、フロッグドッグのところで仕草を真似されて「おれは気に食わん!」と反応を示し始め(p.108)、ニックは「モスは軟化している」(p.108)「意思疎通を妨げる鎧に裂け目が見えた」(p.109)と心の中で喜びます。
モスが軟化したきっかけですが、この前後のシーンを読んで、どうやらバーから放り出されたニックの情景がモスのツボにハマったらしいというのが分かりました。
前のシーンのp.100、盗まれた荷物を取り戻そうとバーに1人で乗り込んだニックが、窓から放り出され、ごみの山の上に落ちました。以下引用です。
しばらくすると、ラングはごそごそと上体を起こして坐った。ぼんやりしているが、怪我はしなかったようだ。シャッターをおろした窓を見あげ、自分の身体を見おろし、それからモスに目を向けた。ようやく立ちあがると、格好をつけようと努力し、服についている野菜屑をとりのぞいた。
「ぼくの服はないと言っていた」ラングは言った。
「まさか、冗談だろ?」モスは答えた。
映画ではガラス窓を突き破って放り出され地面に転がった割には意外と平気そうですぐ次のシーンに行きましたし、それほど重要なシーンとは思っていなかったんですが、小説では描写が長いし、なんか可愛いです。目線の移動が特に。
で、モスのアパートに帰った後のシーンp.126に飛びます。モスがスーザンを迎えに行くためにスーザンのアパートに近い駐車場に車を入れたときのことです。以下引用です。
ふと、ラングがバーからほうり出されて地面に尻をついていた情景を思い出し、にんまりした。あれはなかなか面白かった。ラングが威厳を持って切り抜けたとは言いがたい。もっとも泣き言も言わなかったが。
バーの後、フロッグドッグ食べて、ニックの着替え買いに行って、何時間も経ってるのに思い出すって、しかも大事なデートの前に思い出すって、よっぽど面白かったんですね。
あと「泣き言も言わなかったが」というのが大事です。ニックには度胸があると思うきっかけにもなっているんだと思います。
映画を観て、フロッグドッグを一緒に食べるシーンで、モスの態度がちょっとだけ柔らかくなっているのはなんでだろうと思っていたのですが、納得しました。